最終更新:2026年8月3日
「フリーランス」は法律上の身分ではなく、働き方を指す言葉です。そのため、税務上どう扱われるか(個人事業主か一人法人か)、どの法律に守られるか、どの社会保険に入るかは、それぞれ別の物差しで決まります。見落とされがちなのは、一人法人(一人社長)もフリーランスに含まれること、そしてフリーランス法が守るのは事業者から受けた仕事(BtoB)だけだということです。定義・カテゴリー・法律の適用範囲・社会保険を、一次情報にもとづいて整理します。
フリーランスとはなにか
フリーランスという法的な資格や登録制度は存在しません。2021年に国が定めたガイドラインでは、次のように定義されています。
実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者
この定義には補足があります。専用の事務所を持たず自宅の一部で小規模に事業を行う場合や、コワーキングスペース、ネット上の店舗は「実店舗」に含めません。「雇人なし」とは、従業員を雇わず自分だけ、または自分と同居の親族だけで事業を営むことです。耕地や漁船を持つ農林漁業従事者は含みません。
人数については、調査によって数字が異なります。内閣官房の実態調査(2020年)では約462万人(本業214万人・副業248万人)。基幹統計として初めてフリーランスを把握した総務省の令和4年就業構造基本調査では、本業がフリーランスの人が209万人(有業者の3.1%)、副業のみが約48万人でした。定義の細部と調査方法が違うため単純比較はできませんが、いずれにせよ数百万人規模の働き方です。就業理由の上位2つは「専門的な技能等を生かせるから」と「自分の都合のよい時間に働きたいから」で、「正規の仕事がないから」という不本意な理由は3.5%にとどまります。
ここで押さえておきたい点が2つあります。第一に、フリーランスは働き方の呼び名であって法的地位ではないこと。実際には「個人事業主」か「一人法人」のどちらかの形をとります。第二に、人を雇った時点でフリーランスの枠から外れることです。
個人事業主と一人法人 ― 同じ働き方、違う制度
同じ「一人で仕事をする人」でも、事業の器を個人にするか法人にするかで、税と社会保険の扱いは大きく変わります。
| 個人事業主 | 一人法人(一人社長) | |
|---|---|---|
| 法的な性格 | 個人そのものが事業主体 | 法人という別人格が事業主体。本人はその代表者 |
| 開始手続き | 税務署への開業届 | 法人設立の登記 |
| 課税 | 所得税(累進課税) | 法人税+役員報酬に対する所得税 |
| 年金・医療保険 | 国民年金・国民健康保険 | 厚生年金・健康保険(法人は強制適用事業所) |
| フリーランス法上の扱い | 従業員を使用しなければ「特定受託事業者」 | 代表者以外に役員がなく従業員も使用しなければ「特定受託事業者」 |
実務上とくに重要なのが社会保険です。法人は社長一人であっても社会保険の強制適用事業所となり、役員報酬を受ける代表者は厚生年金・健康保険の被保険者になります(役員報酬がゼロの場合は加入できず、国民年金・国民健康保険になります)。つまり「フリーランス」と一括りにされる人たちの中に、国民年金の人と厚生年金の人が混在している。同じ仕事をしていても、器の選び方で老後の年金も、病気で休んだときの保障も変わります。
カテゴリー分け ― 誰の、どの取引が保護されるのか
2024年11月1日に施行されたフリーランス法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスと発注事業者の間の交渉力の格差に着目した法律です。保護対象は「特定受託事業者」と定義されています。
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの
ここでの「従業員を使用」とは、週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇うことです。これに満たない短時間のアルバイトや、同居の親族のみを使用している場合は該当しません。会社員が副業で受託している場合、その副業の取引については特定受託事業者に当たります。
そして最も重要な線引きが、この法律が対象とするのは事業者からフリーランスへの業務委託、つまりBtoBの取引に限られるという点です。消費者との取引(BtoC)は対象外です。整理すると次のようになります。
| 顧客が事業者 (企業からの業務委託) | 顧客が消費者 (個人向けの教室・施術・販売など) | |
|---|---|---|
| 個人事業主(従業員なし) | フリーランス法の対象 | フリーランス法の対象外 |
| 一人法人(代表1人・従業員なし) | フリーランス法の対象 | フリーランス法の対象外 |
| 従業員を雇う個人・法人 | フリーランス法の対象外 | フリーランス法の対象外 |
企業から依頼を受けてデザインを制作する仕事は対象になりますが、同じデザイナーが個人客から直接注文を受けて似顔絵を描く仕事は保護の外にあります。ガイドライン上は消費者相手に販売する人もフリーランスに含まれるのに、法律の保護対象からは外れる。「フリーランス」という言葉の指す範囲と、法律が守る範囲は一致していません。
なお、消費者向けに働くフリーランスが無保護というわけではなく、消費者契約法など別の法律の領域に入ります。また、業務委託ではなく単なる商品の売買であれば相手が事業者でも対象外です。契約の形式が業務委託でも、実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合は、労働関係法令が適用されフリーランス法は適用されません。
フリーランス法は何を義務づけたのか
法律は「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つの柱で構成されています。発注事業者が負う主な義務は次のとおりです。
- 取引条件の明示義務(第3条)― 委託したら直ちに、給付の内容・報酬額・支払期日などを書面か電磁的方法で明示する。口頭は認められません。この義務はフリーランスからフリーランスへの発注にも及びます
- 期日における報酬支払義務(第4条)― 給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、守る
- 7つの禁止行為(第5条・1か月以上の委託)― 受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し
- 募集情報の的確表示義務(第12条)
- 育児介護等との両立への配慮義務(第13条・6か月以上の委託)
- ハラスメント対策の体制整備義務(第14条)
- 中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条・6か月以上の委託は30日前までに予告)
違反があった場合、フリーランスは公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に申し出ることができます。行政は調査のうえ指導・助言・勧告を行い、勧告に従わない場合は命令・公表、命令違反には50万円以下の罰金があります。申出を理由に契約解除などの不利益な取扱いをすることは禁じられています。法違反かどうか判断がつかない段階では、弁護士にワンストップで相談できる「フリーランス・トラブル110番」も利用できます。
フリーランスと社会保険 ― 形式で保障が変わる
取引の適正化が法律として整備された一方、社会保障の面では、フリーランスは雇用されて働く人と同じ水準の保護を受けていません。
| 会社員 | 個人事業主 | 一人法人(役員報酬あり) | |
|---|---|---|---|
| 医療保険 | 健康保険(傷病手当金・出産手当金あり) | 国民健康保険(傷病手当金は原則なし・扶養の仕組みなし) | 健康保険(強制適用) |
| 年金 | 厚生年金(基礎年金+報酬比例) | 国民年金のみ | 厚生年金(強制適用) |
| 労災保険 | あり(保険料は事業主負担) | 特別加入が可能(任意・保険料自己負担) | 特別加入が可能(任意・保険料自己負担) |
| 雇用保険 | あり | なし | なし |
2024年11月から労災保険の特別加入が全業種に
フリーランス法の施行と同じ2024年11月1日から、すべての業種のフリーランス(特定受託事業者)が労災保険に特別加入できるようになりました。それまで一部業種に限られていた制度が大きく広がった形です。仕事中や通勤中のケガ・病気・死亡が補償の対象になります。
特徴的なのは、BtoBの事業を行っている人であれば、同種の事業を消費者から受けて行う場合(BtoC)のケガ等も補償の対象になる点です。取引適正化のルールがBtoBに限られるのに対し、労災の補償はBtoCまで届いています。ここでも制度ごとに線の引き方が違います。
保険料は、給付基礎日額(加入時に3,500円から25,000円までの16段階から選択)の365日分の0.3%です。給付基礎日額10,000円を選ぶと年間10,950円になります。加入は個人で直接行うのではなく、労働局長の承認を受けた特別加入団体を通じて申請します。
残論点
労災に道が開けた一方で、課題は残ります。雇用保険には依然として加入できず、仕事が途切れた期間を支える仕組みがありません。国民健康保険には傷病手当金がなく、病気で働けない間の所得保障は事実上ありません。扶養の仕組みもないため、家族の人数に応じて保険料が増えます。個人事業主の年金は国民年金のみで、厚生年金のある働き方と老後の受給額に大きな開きが出ます。
根本にあるのは、日本の社会保険が「雇用されているかどうか」を軸に設計されているという構造です。同じ仕事をしていても、雇用か業務委託か、個人か法人かという形式で保障の厚さが決まる。働き方が多様化するなかで、働き方を選んでも保障が変わらない制度(いわゆる勤労者皆保険の議論など)をどう設計するかは、これからの社会保障の大きなテーマです。minoliberaは、この「働き方を規定しない社会保険のあり方」を継続的な研究テーマとしています。
よくある質問
Q. フリーランスと個人事業主は同じ意味ですか?
A. 違います。フリーランスは働き方を指す言葉で、法律上の身分ではありません。個人事業主は税務上の区分です。フリーランスには個人事業主だけでなく、従業員を雇わない一人法人(一人社長)も含まれます。
Q. フリーランス法は一人法人(一人社長)にも適用されますか?
A. 適用されます。一の代表者以外に他の役員がなく、従業員を使用しない法人は「特定受託事業者」に該当し、個人事業主と同じ保護を受けます。
Q. フリーランス法の「従業員を使用しない」とはどういう意味ですか?
A. 週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇っていないことを指します。この基準に満たない短時間の雇用や、同居の親族のみを使用している場合は「使用しない」に当たります。
Q. 消費者から直接受けた仕事もフリーランス法で保護されますか?
A. されません。フリーランス法の対象は事業者から受ける業務委託(BtoB)に限られ、消費者との取引は対象外です。消費者契約法など別の法律の領域になります。ただし労災保険の特別加入は、同種の仕事であれば消費者から受けるものもカバーします。
Q. フリーランスはどの社会保険に入りますか?
A. 個人事業主なら国民健康保険と国民年金、一人法人で役員報酬を受けるなら健康保険と厚生年金に加入します。法人は社長一人でも社会保険の強制適用事業所となるためです。労災保険は2024年11月から特別加入が可能になりました。雇用保険に相当する失業時の保障は現在ありません。
Q. フリーランスは労災保険に入れますか?
A. 2024年11月1日から、全業種のフリーランス(特定受託事業者)が特別加入できるようになりました。保険料は選択した給付基礎日額(3,500円から25,000円までの16段階)の365日分の0.3%で、加入は特別加入団体を通じて行います。
Q. フリーランスが人を雇ったらどうなりますか?
A. 週20時間以上かつ31日以上の見込みで人を雇うと「特定受託事業者」ではなくなり、フリーランス法の保護対象から外れます。同時に、雇用主として労働法上の義務を負う立場になります。
Q. 報酬が支払われない場合、どこに相談すればよいですか?
A. フリーランス法違反と思われる場合は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に申し出ることができます。判断がつかない段階では、弁護士にワンストップで相談できる「フリーランス・トラブル110番」も利用できます。申出を理由に不利益な取扱いをすることは法律で禁じられています。
制度の「あいだ」にいる人たちのために
フリーランスは、労働法と事業法の「あいだ」に置かれてきた働き方です。フリーランス法の施行と労災特別加入の拡大で、この数年、環境は確実に前進しました。それでも、法律が守る範囲と実際の働き方の間には隙間が残っています。BtoCは取引ルールの外にあり、雇用保険は届かず、社会保険は器の選び方で変わる。
minoliberaは、フリーランスの取引環境整備に関する提言や、働き方を規定しない社会保険のあり方の研究に関わってきました。業界として制度に働きかけたい、行政との向き合い方を設計したいというご相談はお問い合わせからどうぞ。
